Nakaichi special Chinese herbal soup
店名
中一素食店 健福
ジャンル
台湾素食
果報な一皿
中一特製漢方スープ
episode 01

漢方たっぷりで栄養豊富
からだの内側から元気に!

“台湾素食(そしょく)”といえば、第一に名前があがる「中一素食店 健福(なかいちそしょくてん ちぇんふ)」。JR国立駅から歩くこと数分、その佇まいは町のレストランといった趣で、店主による気さくな接客と料理は、1986年の開業以来、ベジタリアンのみならず、地元客にも愛されています。

「素食」とは菜食のことで、台湾におけるベジタリアン食のこと。ベジタリアンのなかでもオリエンタルヴィーガンと呼ばれ、仏教思想に基づいて避けるべきと考えられている三厭(さんえん。鳥・牛や豚の肉・魚)や動物性由来の卵や乳製品、さらに五葷(ごくん。ニラ、ネギ、ニンニク、ラッキョウ、アサツキ)も使わずに料理が作られているのが特徴です。

そんな台湾素食レストランである「中一素食店 健福」では、酢豚や魯肉飯(ルーローハン)など、見た目や味、ボリューム感が普通の中国料理と変わらない“もどき”料理の数々を味わえます。

以前、友人とランチで初訪問した際、2人とも偶然に選んだのが「中一特製漢方スープ」1,380円。その日は少し肌寒かったせいか、自然とからだが欲していたのか、このスープを選んで大正解とばかりに、名残惜しみながら最後の一滴を飲み干すほど、すっかり虜になった一品でもあります。今回は同店スペシャリテである「中一特製漢方スープ」の魅力を紹介します。

野菜やきのこなどの具材がたっぷり入ったスープは、見るからにからだが内側から元気になるイメージが膨らみます。一口飲むと、漢方特有のどこか癒されるやさしい香りが脳内にふわりと届き、ほのかなスパイスと複雑で豊かな味わいがからだに染み渡るのを実感。

シャキシャキとした小松菜や、歯ごたえを楽しめる乾燥湯葉、ふわっとジューシーな山伏茸、チャーシューもどきの大豆ミート、柔らかく果肉の甘みが溢れるナツメなど、さまざま10種もの食感を楽しむことのできる、まさに食べて満たされるスープでもあります。食べて元気になるとは、まさにこのこと。

「台湾では普段の食生活のなかで、体調を整えたり、からだをメンテナンスするためにこうした漢方スープを食べます。貧血気味のときや、元気のないときなどに、台湾ではお母さんが作ってくれるんですよ」とは、店主で素食のスペシャリストである李 健福(リ・チェンフー)さん。

台湾には医食同源の考えに基づき、漢方食材を使った薬膳料理が多く、季節や体調にあわせて漢方食材をうまく取り入れているとのこと。

熟練の調理長、荘 美連(ソウ・ビレン)さんが作る「中一特製漢方スープ」はスープ自体に当帰、桂枝、芍薬、黄芪、高麗人参、青芪、甘草、熟地黄、白芍、竜眼、川芎、クコの実、ハスの実、ナツメをオリジナルブレンドして使用。

これら14種類の漢方食材にキャベツやリンゴ、ニンジンを加えて煮出したエキスに昆布だしを合わせ、醤油、酢、ごま油、塩で味を調整。漢方食材がぎゅっと凝縮されたスープといえば、味が独特で香りが強いイメージ。ですが、キャベツやリンゴ、ニンジンの野菜だしのやさしい旨味と醤油の風味、ごま油の味わい深さなどが加わることによって、日本人にも食べやすいように仕上げてありました。

「血液の流れを良くし、手足の冷えを改善してくれる漢方食材がさまざま含まれています。からだを温めるだけでなく、新陳代謝を高めるので、食べると元気になると言ってくれるお客さまが多いですよ」と李さん。漢方たっぷりで栄養豊富、食材の旨味がぎゅっと詰まったこの一椀にファンが多いのもうなずけます。

このスープを使った「漢方麺」1,080円も大人気なのだとか!炭水化物をしっかり摂りたい人は漢方麺を。ただし、漢方スープは麺なしの分、具だくさんでお腹いっぱいになりますよ。

episode 02

知るほどにおもしろい!
豊かな台湾素食の世界

宗教上の背景や健康志向の高まりなどから国民の1割がベジタリアンという台湾。台湾の最南端、リゾート地として知られる屏東(ピンドン)県出身の李さん一家も代々ベジタリアンです。

「日本人の友人が多い祖父は、よく日本と台湾を行き来していました。でも当時、日本には菜食の店がほとんどない状況。ならば、自分たちで菜食店をやろうと、家業として台湾素食レストランを始めました」

まだベジタリアンという言葉も浸透していなかった1986年、国立に開業した当時、法政大学に留学中だった李さんは、経営管理を学ぶ傍ら、祖父と父が営むレストランに当初から携わっていたそうです。日本では珍しい台湾素食レストランはその後、立川や銀座、六本木、名古屋、大阪、三重などに展開された時期も。コロナの影響などもあり、現在は国立と三重・伊賀の2店舗を運営しています。

台湾素食では使用しないネギやニンニクなどの食材が大好きな私のような人にとっては、物足りなさを感じたり、ハードルが高いと感じてしまったりも……。そもそも、なぜ五葷を避けるのでしょう? 李さんの見解を伺いました。

「古来より“五行説”によると、ネギやニンニクなどの五葷は陰性の気が強く、体内に入れば五臓(心、肺、肝、腎、脾)に負担がかかるだけでなく、人の心にも影響を及ぼすとされています」

 

例えば、五葷・五情(心)・五臓の関係は以下のような関係に。

  • ネギが多いと落ち込みやすくなり、腎臓を傷めます
  • ニンニクが多いと気ままになりやすく、心臓を傷めます
  • ニラが多いと落ち着きがなくなり、肝臓を傷めます
  • ラッキョウが多いと慾が強くなり、脾臓を傷めます
  • アサツキが多いと怒りっぽくなり、肺臓を傷めます

 

「一般的に、元気になるからとネギやニンニクなどを食べる人は多いですが、しかし、それはあくまでもからだや心を一時的に刺激し、興奮がおこりますが、これを元気と錯覚してしまうのです。例えば、眠いときにコーヒーを飲むと、目がぱっちりして眠れなくなりますが、実際、からだはオーバーヒート。カフェインをとることにより無理やり元気に、興奮させているだけで、休みたいけれど、からだが休まらない状態になっているのです」

五葷を避ける理由、それは心やからだの穏やかさを欠いてしまうからなんですね。心を鎮めて座禅するお坊さんにとって、五葷を食べることで興奮し、落ち着かなくなることは、修行の妨げになるということ。李さんの明解で分かりやすい説明と合理的な理由に納得です。

 


※五葷については、曹洞宗僧侶の西田稔光さんに尋ねた記事も併せてぜひご覧ください。
私たちが知らない、五葷のホント〜禁忌の誤解から食生活への活かし方まで〜 ▶

 

ベジタリアンのみならず、お参りの習慣のある1日、15日、法要などの特定の日には菜食料理を食べる習慣が根付いており、台湾の暮らしに身近な存在である素食。李さんはこれまで数々の台湾ツアーで、台湾素食店と素食文化を日本人に紹介してきました。

「台湾素食はヘルシーなうえにボリュームたっぷり。メニューのバリエーションも幅広いんです。人口2300万人のうち、素食関連の店が5000以上あると以前聞いたことがありますが、それほど台湾人にとってニーズがあるということですね。ベースは宗教的な背景が大きいですが、昨今では、健康のため、美容のため、ダイエットのため、環境のためなどさまざまな観点から素食が注目され、“もどき”食材もたくさん開発されているんですよ」

台湾から輸入する大豆ミートを使った「酢豚風」880円は同店の人気メニューの一つ。ジューシーな肉感で、酢豚が好物、ノンべジの私も大満足です。さらに、さまざまな素食料理を味わってみたくなりました。

店内には物販コーナーもあり、大豆ミートのほかにも、大豆ハムやべジフランクソーセージ、イカやエビ、サバなど魚介類がもっている食感をこんにゃくで再現した、見かけだけでは分からない本物そっくりの冷凍加工食品が種類多く揃います。さすがベジタリアン先進国ならではのラインナップの豊かさとおもしろさに、興味がかき立てられました。

食事を楽しんだ後は、こうした加工食品やお茶、漢方スープやインスタントラーメン、お菓子などをお土産に購入することもできます。ちょっとした台湾旅行気分を味わえる「中一素食店 健福」へ、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

PROFILE

李 健福(リ・チェンフー)

1960年台湾屏東生まれ。1986年、法政大学留学中、家業である「中一素食店」の開業から携わる。卒業後、コンサルタント会社勤務を経て「中一素食店 健福」代表取締役に。現在は東京・国立市と三重・伊賀市に2店舗展開菜食事業総合コンサルティング、ベジタリアン食材の輸入・卸販売などを手がける。台湾と日本を行き来し、台湾素食文化の普及に努めている。

中一素食店 健福