シェフが恋した9つの食材「SHOKADO-9」
店名
MOSS CROSS TOKYO
ジャンル
モダンジャパニーズ
果報な一皿
SHOKADO-9 シェフが恋した9つの食材
episode 01

シェフが恋した食材で
魅了する小鉢料理の饗宴

色鮮やかな食材を使った小鉢料理が9つ。仕切りのある木箱に詰められ、まるでハレの日のご馳走のように華やかです。

これは赤坂にあるホテル フレイザースイート赤坂東京の1階に位置するモダンジャパニーズレストラン『MOSS CROSS TOKYO』のヴィーガンランチコース「Vegan〜彩〜」4,500円より、ある日の前菜。メニュー名は「SHOKADO-9 シェフが恋した9つの食材」とあり、提供される前から心がときめきます。

ちなみに、この日使われた食材は上段左から順番に、京都地豆腐の醗酵ラヴィゴットソース/佐渡島産黒きくらげときのこ ナツメ風味/自社農園『CROSS FARM』産ニンジンのラペ ホウヅキ/佐渡島産柿の白和え グリーンマスタード/ビーツと木苺のマリネ/紫大根と柚子 ハーブ手毬寿司/インカのめざめとトリュフのクロケット 自家製ウスターソース/『驚異的マッシュルーム』ハーブ手毬寿司/ワンダーファームトマト 梅のマリネ。

懐石料理をルーツにもつ松花堂弁当のイメージをふくらませたこの前菜は、その名の通り、シェフが恋した食材とその魅力がいかんなく発揮された渾身の逸品。コース(5品)の序盤に登場するやいなや、食べ手の心を一気にさらっていくのです。

食材に恋するシェフとは、一体どういう人なのか気になりませんか? そして、その食材の魅力にも迫ります。

食材に恋するシェフとは、『MOSS CROSS TOKYO』の厨房を指揮するグランシェフ、増山明弘さんです。都内のフランス料理店やフランス・ブルゴーニュのレストランで修業した後、千葉にある日本初のハーブガーデン「大多喜ハーブガーデン」の料理長を経験し、ハーブコーディネーター、スパイスコーディネーターの資格を取得。「ハーブの魔術師」の異名を持ち、ハーブを巧みに使うのも増山シェフならではです。

 

レストランのコンセプト<和魂洋才(和の心と西洋の技法)>のもと、経験してきたことや培ってきた技術、増山シェフの世界観が詰め込まれたこの木箱。コースのはじめに提供される前菜は、増山シェフの名刺がわりといってもいいでしょう。

SHOKADO-9 シェフが恋した9つの食材」に込められた増山シェフの熱い想いは、厨房でのポジショニングまで変えてしまうほど。

「この前菜は、実はメインディッシュより大事なポジション。だから私は基本的に前菜場に立ち、9品の仕込みから仕上げまで担当します」

異例ですが、メインディッシュは2番手に任せ、自身はこの前菜に集中。

実際にかかるコストや手間は、一般的な前菜の34倍ほど。扱う品目の多さはもちろんのこと、何段階もの下ごしらえや調理、味付け、器との取り合わせや繊細な盛り付けまで、大変な時間と手数を要するのです。

「京都地豆腐の発酵ラヴィゴットソース」は、和の代表食材である豆腐を、醗酵の力を利用し、味に奥行きのあるフレンチに仕上げたひと品。

味の決め手のソースは、香味野菜を皮付きのまま、スパイスやハーブと合わせて海水に漬け込み、57日間醗酵。その後、みじん切りにし、レモンの塩漬けを加えたり、ハーブを加えたり、みじん切りにして炒めた明日葉を加えたり。小鉢料理一つにも、ひと手間もふた手間もかかっていました。

増山シェフはめまぐるしく一番手数の多い前菜場に立ちながら、頭の中ではあることを思い浮かべながら作業しているといいます。

「それは、生産者の顔。実際に現地を訪れたときの景色。その時に感じた風、香り。そういうことを思い出して料理をしたいのです」

小鉢料理を媒介にして、現地で感じた風や採れたての香りまでも表現し、恋した食材の魅力を私たちに届けてくれるのです。

episode 02

現地の風や香りを感じて。
それが料理の源泉に

増山シェフがたびたび言葉にし、大事にしているのが「生産者との御縁」。毎回のメニュー作りにも、単に旬のものを使うという発想ではなく、“人の旬”で食材を選ぶという、増山シェフならではのアプローチがありました。

「御縁のある人の旬の食材を使いたい。いまあの人の食材を使いたいなと思ったり、その人のことを思い出したり。そういう中で、食材を決めるようにしています」

実際に現地に足を運び、自身が恋した食材を生産者から直接仕入れる増山さん。その御縁は全国各地に広がり、現在60人ちかい生産者とお付き合いがあるそうです。

毎月、ときには毎週、生産者のもとを訪れるために各地へ旅をするので、「旅するシェフ」とも呼ばれている増山さん。継続して現地へ赴く、その原動力は何なのでしょう?

「まだまだ知りたいし、見たい。そして、もっと料理を創造したい。そういうことを常に考えています。その土地に行くと風景やそこに住む人から、料理がイメージできるのです。現地へ赴くことが、私の料理を創造する源泉になっているのかなと思いますね」

料理を創造するために、休日も使い旅する増山シェフ。「いまあの人の食材を使いたい」と今回思い浮かべたのは、新潟・佐渡島の西井さん。2年ほど前にご縁がありつながった生産者で、豊かな自然のある佐渡で主に柿やきくらげを栽培しています。

こちらの「佐渡島産柿の白和え グリーンマスタード」は、西井さんから届いた柿を使った一品。

「秋冬になると佐渡島の西井さんを思い出し、柿やきくらげを使った料理を作りたいと思うのです。それでこのメニューを考案しました」

甘く瑞々しい柿の白和えは和の料理に見えますが、洋のエッセンスであるグリーンマスタードの爽やかな辛味が見事に調和。一見、味の想像がつかない組み合わせでも、食べてみると感動のおいしさがあり、体験したことのない扉の向こうへ連れて行ってくれるのです。

さらに、感動体験は続きます。

「『驚異的マッシュルーム』ハーブ手毬寿司」と名付けられた一品は、フレッシュなマッシュルームのインパクトある香りが魅了するひと口大の手毬寿司。

「マッシュルームは静岡の生産者、長谷川さんから直接届いたもの。マッシュルームは長谷川さんからしか仕入れないと決めているくらい、このマッシュルームに恋しているんです。きのこは、香りが人を魅了する食材だと思うのですが、特に採れたての香りが驚異的! 無農薬、無漂白で栽培するので、出荷前に水につけたりする工程がない分、香りがストレート。食感もパリパリです」

シソやイタリアンパセリ、ケッパーに松の実の食感を加えて、自家製ハーブビネガーを合わせたハーブライスに、直前にスライスしたマッシュルームをのせて。噛むごとに、和洋のハーブの爽やかな香りとマッシュルームの香りが口の中に広がります。

コースの序盤から目も舌も存分に楽しませてくれる前菜「SHOKADO-9 シェフが恋した9つの食材」は、来年2022年にはさらに進化する予定。

「ハーブやスパイスの延長線上で薬膳も勉強しているのですが、和漢の要素も取り入れ、さらに心とカラダが喜ぶ料理を提供していきたいと考えています」

ちなみに、この「SHOKADO-9 シェフが恋した9つの食材」はヴィーガンコース(ランチ54,500円、ディナー79,680円)のほか、通常のコース(ノンヴィーガン)各種でも楽しめます。

レストランの母体である「CROSS TOKYO」は東京のほか福島や福岡、沖縄などにレストランを展開し、グランシェフである増山さんが各店舗のコンセプトに合わせたメニュー作りを監修。20174月には千葉の自社農園『CROSS FARM』で、スタッフとともに野菜づくりも始めました。

そして、魅力ある生産者と食材を求めて行く先は、八丈島や佐渡島、宮城、福島、富山と2カ月先まで予定がぎっしりとのこと。御縁が数珠のようにつながる恋するシェフの旅はまだまだ続きます。今週の休日は、どんな地へ趣き、どんな食材に恋しているのでしょうか? 今後ますます楽しみです。

 

文=味原みずほ  写真=新谷敏司

PROFILE

増山明弘(ますやま・あきひろ)

1978年千葉県生まれ。10代の頃、テレビ番組「料理の鉄人」を見て、活躍するオヤジたちの姿に憧れ、料理の道を志す。調理師専門学校卒業後、赤坂『ジョンカナヤ』をはじめ、都内フランス料理店で修業。27歳で渡仏。ブルゴーニュ『ル ジャルダン ランパール』などで研鑽を積む。2004年に神楽坂『フレンチダイニング』料理長、2008年に日本初のハーブガーデン『大多喜ハーブガーデン』料理長、2012年から六本木『CROSS TOKYO』料理長に。20203月より赤坂『MOSS CROSS TOKYO』料理長。ハーブコーディネーター、スパイスコーディネーター。目標は60歳になったころ、輝いているオヤジになっていたい。

<シェフがいま気になる野菜を紹介>

好物はさつまいも。特に蜜が入ってしっとりしているのが好きです。この冬は、八丈島からさまざまな品種のさつまいもが届く予定。料理やデザートなど何にでも使えるので、調理するのが楽しみです。八丈島の生産者のもとにたびたび訪れるのですが、火山灰の痩せた土地なので、さつまいもなどの乾燥に強い農作物の栽培が盛ん。さつまいもなどの芋類はもちろん、海藻(煮溶かして固めたブドという郷土料理が有名)や明日葉なども名産です。

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