カントニーズ 燕 ケン タカセ メイン画像
店名
カントニーズ 燕 ケン タカセ
ジャンル
広東料理
果報な一皿
“齋”佛跳牆 – “ザイ”ファッチューチョン
episode 01

お坊さんをも誘惑する
中国料理最高峰のスープ

みなさんは“佛跳牆(ファッチューチョン)”という料理をご存知ですか?

高級乾燥食材として珍重されるフカヒレや干し鮑、干しなまこ、スッポンなどの海産物、豚やアヒルなどの肉類を合わせて壺に入れ、蒸し煮した中国料理最高峰のスープと言われています。

そのあまりの美味しそうな香りにつられ、本来肉や魚を食べてはいけないはずのお坊さん(=佛)でさえも、塀(=牆)を飛び越え(=跳)、我慢しきれずに盗み飲んでしまうというのが料理名の由来。

この贅を尽くしたスープはテーブルに運ばれてくるとともに、そんなエピソードも合わせて語られる、まさに蓋を開ける前からワクワクさせてくれる逸品なのです。

高級広東料理店では定番メニューの一つとして知られているところですが、発音しづらいことから“ぶっとびスープ”という通称でご存知の方も多いのではないでしょうか。

この佛跳牆を、海産物や肉類を一切使わない、完全ベジタブルバージョンでいただけるレストランがあるのです。

それが東京ステーションホテル内にある「カントニーズ 燕 ケン タカセ」。野菜をテーマにした新感覚の広東料理が楽しめ、女性層や海外の方からも高い支持を得ているレストランです。

「“齋”とは野菜のこと。当店は野菜をテーマに掲げているので、野菜だけでこの最高のスープをつくれないかと思い、試作を重ねて完成させたものです。数種類のきのこや広東乾燥野菜、薬膳生薬でつくったオリジナルの精進蒸しスープですので、ベジタリアンやビーガンの方でも食べられますよ」とは、オーナーシェフの高瀬健一さん。

高瀬シェフオリジナルの「“齋”佛跳牆」には、日本では珍しい山伏茸(広東では猿頭茹(ハウタウグー)。猿の頭のような形をしたきのこ)や茶樹茸、袋茸、椎茸、エリンギ、マッシュルームといった乾燥きのこ類のほか、金銀花(カンガンファ)や金針菜、大豆、干し広東白菜、ナツメ、クコの実、大豆ミートなどが使用されています。

蓋を開ければ、えも言われぬふくよかな香りがふんわり。オレンジ色の金銀花が目を惹く具沢山のスープは、透き通った琥珀色をしています。一口いただくと、さらさらとした口当たりでありながらも乾物由来の濃厚な旨味が宿り、じんわりとカラダに染み渡るよう。この幾重にも倍増された旨味を体験すれば、お坊さんが思わず塀を飛び越えてしまう気持ちもうなずけます。

しかしながら、本来はフカヒレや干し鮑などといった乾燥食材をふんだんに使う料理。あえてそれらの動物性食材を使わずに、これだけの旨味が引き出せるものなのでしょうか。何か特別な調味料を使っているのでは?と思い伺ってみると、「あとは塩だけ」というあっさりとした返答が。素材の旨味だけでこんなにも美味しいスープが出来上がるなんて、さらに驚かずにはいられません。

「素材を一晩水に浸して水出しし、塩で整え、専用の器に入れたまま3〜4時間蒸しています。乾物ですから素材に含まれている旨味成分が凝縮されているほか、主体となっているきのこ類には、βグルカンといった免疫機能を活性化させてくれる栄養素も豊富に含まれています。生活習慣病や美容にも良いとされる健康スープなんですね」

また、この佛跳牆には専用の器があるのだそう。「カントニーズ 燕 ケン タカセ」では、高瀬シェフが香港から買い付けたという陶器の壺で提供されます。「器に材料とスープを入れて蒸す“燉(ダン)”という調理方法でつくるのですが、長時間蒸すのにも絶えられるような燉専用の器なんです」。そしてよく見ると、蓋の取っ手の部分がお坊さんの形をしているではありませんか! このスープのために専用の器が作られてしまうほど、伝統的に愛されている逸品なのですね。

料理名の由来や食材、調理法、器にいたるまで話題に尽きないこの一品。その一つ一つをサービススタッフが丁寧に説明をしてくれるので、味わいとともに記憶にも深く刻まれます。

また、「“齋”佛跳牆」はベジタリアンディナーコースのほか、人気メニュー入りのヘルシーディナーコース「嬉燕 -MARRY SWALLOW-」各8,800円(税・サ別)にも組み込まれ、それぞれ4皿目に登場。ベジタリアンとノンベジタリアンが同じテーブルを囲んで別々のコースを味わうことも可能なのです。

洗練されたダイニングルームでこの果報な一皿を一緒に食せば、特別な会食や接待などのビジネスシーンも印象深いものになるはず。こちらを訪れたら、ぜひこの逸品を召し上がってみてはいかがでしょうか。

 

ちなみに、高瀬シェフのスペシャリテである「“齋”佛跳牆」は「カントニーズ 燕 ケン タカセ」でいただけますが、高瀬シェフがもう一つ手がける銀座の完全予約制レストラン「中華たかせ」では、フカヒレや干し鮑といった高級海鮮乾物を使った「佛跳牆」も味わえます。両方のレストランで、野菜と海産物の2つの佛跳牆を味わってみる。なんとも贅沢な楽しみ方ですね。

episode 02

野菜もフルーツも漢方薬。
食で美と健康を保つという考え

以前、マンダリンオリエンタル東京の「広東料理SENSE」でシェフを務めていたころ、来店される海外からのお客さまの中にはベジタリアンの方も多く、その都度、ベジタリアンメニューに対応していたという高瀬シェフ。

「ベジタリアンの方も、そうでない方も、同じテーブルで楽しく食事ができる空間をつくりたい」

東京駅丸の内駅舎が復元した2012年、この店を東京ステーションホテル内にオープンする際にはそんな思いがあったそうです。

メニューには、野菜のみで構成されたベジタリアンコースと、シェフオリジナル料理と伝統の広東料理を組み入れたコースなどが並びます。

野菜をテーマに掲げているとあって、ベジタリアンコースの序盤に登場する「季節の健康野菜の特製オードブル盛り合わせ」は、彩りも鮮やかで目にも麗しく、感嘆のため息がもれるほど。

常に料理のことを考えているという高瀬シェフは、野菜のみの材料で研究開発した自家製VXO醤でコクと旨味を添えたり、食感を最大限に生かすため、食材によってマリネの時間や調味をそれぞれ変えていたり。「野菜だけでもこんなに満足できるんだ」と驚かれるお客さまも多いといいます。

そもそも、こちらのレストランはなぜ野菜をテーマに掲げているのでしょうか?

「私たち日本人にとっての中国料理と、香港の中国料理って、実は違うんですよ。広東料理の本場、香港ではベジタリアンの人口が5〜10%といわれるくらい多く、広東料理はベジタリアン料理の最先端でもあるんです」

これまで香港へ60回以上足を運んでいるという高瀬シェフ。本場で最先端の広東料理を研究したり、旅をしていて感じたものがあるそうです。それは「日本にはまだまだ本当の広東料理が普及していない」ということ。

「中国にはヘルシーで栄養価の高いものを食べることで、美しく健康を保つ“医食同源”という考え方があります。高麗人参やハスの実といった特別な食材だけではなく、スーパーに並んでいるフレッシュな野菜も全部漢方薬なんです。冬瓜だって茄子だって、むくみをとってくれたり、肌を健やかに保ってくれたりする漢方薬なんですよ」

“野菜は漢方薬”という高瀬シェフの言葉に、目からウロコが落ちたような思い。「カントニーズ 燕 ケン タカセ」では、サービススタッフが料理を提供する際に、使われている食材の働きや効能についてもさり気なく説明してくれます。そうしたちょっとした心遣いも、私たち食べ手の野菜に対する理解を深め、より一層おいしく食事を楽しませてくれるのです。

ベジタリアンディナーコースで提供される「季節野菜のカレー風味パパイヤ詰め焼き 豆乳チーズをのせて」は、写真映えしそうなインパクトのある盛り付け、濃厚でコクと深みのある味わいながら、カレー風味のスパイスで爽快感をもたらしてくれます。

それのみならず、実は夏の季節にぴったりな料理の一つであるという裏付けがありました。

「広東料理では定番で使われるパパイヤですが、夏のウリ科の野菜はカラダのほてった熱をとってくれる上、脂肪を分解させる成分も豊富なんです。召し上がったお客さまにとても喜ばれる一品ですね」

高瀬さんの食材選びや調理法は、医食同源の考えがベースになっていますが、それはデザートにおいても然り。

デザートも薬。広東料理には定番デザートとして“糖水(トンスイ)”という季節のフルーツや薬膳食材のシロップ煮があり、当店でも季節のデザートとしてさまざまにお出ししています。季節の野菜やフルーツが、カラダにとってどのように良いか、どういう時に食べるとカラダの調子を整えてくれるのか、そういうこともお食事を通して楽しみながら感じてもらえたらいいですね

そんなお話を伺っていると、ますます高瀬シェフがつくる広東料理の虜になってしまいました。ここを訪れれば、まだまだ知られていない野菜のもつ奥深い値打ちと広東料理の文化を、楽しみながら知ることができるかもしれませんね。

 

文=味原みずほ 写真=鈴木教雄、田中秀典

 

PROFILE

高瀬 健一(たかせ・けんいち)

1965年、宮城県仙台市生まれ。20歳のときから料理の世界に入り、都内各広東料理レストランで修業。香港や広州へ延べ60回以上渡航し、本場の料理を研究。2005年、マンダリンオリエンタル東京「広東料理SENSE」初代料理長に就任。ミシュランガイド東京で一つ星に導く。現在、東京ステーションホテル内「カントニーズ 燕 ケン タカセ」、銀座に完全予約制レストラン「中華たかせ」をオーナーシェフとして展開。

<シェフがいま気になる野菜を紹介>

“ひゆ菜”という野菜をご存知ですか? 熱帯アジアが原産で、ほうれん草に似た野菜です。香港では夏野菜としてとてもポピュラーな存在。鉄分が豊富で、中にはアントシアニンが豊富な赤いひゆ菜もあります。日本ではまだ珍しい野菜の一つですし、広めたいなという思いもあり、毎年夏になると料理に組み込んでいます。今では日本全国で中国野菜を栽培する人も増えていますが、ひゆ菜のようにまだまだ知られていない中国野菜はたくさんあります。そうした中国野菜も日本のみなさんに紹介していきたいですね」

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