ねっとり、熟成系焼き芋はなぜ人気!?
“さつまいも”オタクに聞いた事情とは<前編>

WRITER/
内田あり

スーパーの店頭でさつまいものいい匂いが漂ってくる……、そんな季節になりましたね。最近は焼き芋専門店に行列ができたり、ネット注文で冷凍焼き芋が家まで届いたりと、より手軽に購入できる時代に。売り方が変わっても、人がさつまいもを愛する気持ちは、昔も今も変わりませんよね。

そこでさつまいもの最新事情を、ご自身をオタクと呼ぶ『一般社団法人さつまいもアンバサダー協会』代表理事の橋本亜友樹さんに伺いました。

安納芋ブームを皮切りに、
甘くてねっとり系が登場!

 


――――ここ近年、焼き芋やさつまいもを使ったスイーツなどが、テレビで頻繁に取り上げられることが多くなりましたね。やはり、さつまいもの注目度は高まっているのでしょうか。
 

橋本さん「急にブームになったというよりは、ジワジワと注目度が高まってきてたという印象ですね。実は2003年ぐらいから、焼き芋の第4ブームがはじまったと言われています。それまでは、焼き芋と言えば石焼きが主流だったのですが、この時期に電熱器で焼き芋が作れるようになったんです。スーパーでも手軽に焼き芋が販売できるようになったことで、焼き芋ブームが再熱したというわけです
 

 

――――安納芋ブームがありましたよね。今は、紅はるかやシルクスイートなどをよく聞きますが、人気の品種って変わっていくのですか?

 

橋本さん「2007年ぐらいから少しずつ、安納芋の認知度が上がってきました。安納芋はそれまでにない、ねっとりとした甘みの強い品種。以前はどちらかというとホクホク系が好まれていましたが、安納芋の人気とともに、甘みが強くてねっとり系のさつまいもが主流になっていきます」

 

安納芋の写真

 

――――安納芋が出てきたことで、よりスイーツとして楽しめるようになったということでしょうか。

 

橋本さん「そうですね。そして、2012年ぐらいから紅はるかが登場します。紅はるかもねっとり系で、非常に甘みが強い品種です。安納芋は南九州、特に種子島で栽培されているのに対して、紅はるかは栽培する土地をあまり選ばないことから、安定的に収穫できるメリットがあります。また紅はるかは栽培がしやすい品種で、ここ最近の焼き芋ブームで需要も高まっていることもあり、次第に収穫量が入れ替わってきたというわけです。紅はるかも収穫直後はホクホク、貯蔵することでねっとりしてきて、貯蔵時間によって両方の味わいが楽しめるのが特徴です。また、同じく人気の高いシルクスイートは、ややしっとりとした食感で、紅はるかとは違った味わいがあります」

 

 

――――さつまいもの産地といえば、鹿児島という印象があるのですが、実際にはどこでおもに生産されていますか?

 

橋本さん「関東は茨城県、千葉県、九州は鹿児島県、宮崎県と、統計上はこの4県がおもな生産地です。ただし、さつまいもはJA以外の流通業者も多く、直接取り引きされることも多いので、実際には全国各地でさつまいもはもっと作られていると思われます。直売所で販売されたり、最近では野菜の直販サイトなどで消費者と直接取引をしている農家さんも多くなってきています」

 

 

――――さつまいもは産地によって、味が違ってきますか?

 

橋本さん「どちらかというと、産地ではなく品種による味や食感の違いが大きいです。だから、まずは好みの品種で選んでみるのがいいですね。ホクホク系が好みなら、紅あずまや鳴門金時など。ねっとり系が好きなら、安納芋や紅はるか、シルクスイートなど。それから、産地や生産者さんにこだわってみるといいと思います

 

 

――――収穫後の貯蔵期間によって、さつまいもはおいしくなるのは本当ですか?

 

橋本さん「貯蔵することによって、さつまいもは甘みが増していきます。品種によって味や食感の特徴はありますが、そのポテンシャルを最大限に引き出すためには、貯蔵をして熟成させることが重要です。その貯蔵方法は年々進化しているため、より長期間をよい状態で貯蔵することができ、熟成されたねっとり系のさつまいもが楽しめるようになったのです」

 

 


選ぶコツは、品種と貯蔵期間!
熟成モノは、12月ごろから店頭に


 

さつまいもの写真

 

――――私たち消費者が、おいしいさつまいもを選ぶときのポイントはありますか?

 

橋本さん「先ほど言ったように、産地ではなく、好みの味や食感に合わせて品種で選んでみてください。また、どのぐらい熟成されたものなのかは、見た目では判断できないので、ねっとり系が好みなら、“長期熟成”“90日熟成”などと謳っているものを選ぶのもいいですね。逆にホクホクが好みなら、収穫後すぐのものや“新物”と謳っているものを選びましょう」

 

 

――――お店で並んでいるものが、どのぐらい熟成されたものかを知ることはできますか?

 

橋本さん「さつまいもの収穫は9月〜11月が多く、10月がピークと思ってください。その時期に店頭に並んでいるものは、収穫したてのものなので、ホクホクした食感になります。そして12月に入ってから並んでいるものは、だいたい1カ月ぐらいは熟成されているはずなので、ねっとりした食感が楽しめるはず。年明けぐらいに並んでいるものは、しっかり熟成されているでしょう」

 

 

――――タイで日本の焼き芋が人気というニュースを見ました。やはり、日本のさつまいもの品種や技術はトップレベルですか?

 

橋本さん「戦後から、日本は甘さを追求して品種改良をしてきました。一方で海外では、おやつやスイーツ感覚よりは、主食として使うように品種改良が進んできたんです。とくに欧米は、かぼちゃと同じように野菜感覚で使うことが多いですね。

でも、最近は海外でも、焼き芋や干しイモなどさつまいもスイーツの人気が高まってきています。たとえば、シンガポールのドン・キホーテが焼き芋を売り出して爆売れしたとか。もともと芋類を食べる習慣があった東南アジアでは、さつまいもの商品が受け入れられやすいようですね」

 

 

――――アジアだけにとどまらず、これからますます海外進出していきそうですね。

 

橋本さん「フランスに出店したいという焼き芋屋さんや、オーストラリアで干しいもを売りたいという店の話も聞きますね。ヘルシー思考で菜食主義の人が多いアメリカなどでも、ノンシュガーなのに甘みたっぷりのさつまいもは受け入れられるのではないでしょうか」

 

 

後編に続きます。

 

 

<まんぷくベジが注目する焼き芋店>
 

銀座 つぼやきいも

超蜜やきいもpukupuku

焼き芋専門店 ふじ

 

 

<お話を伺ったのは…>

橋本さんの写真


一般社団法人さつまいもアンバサダー協会 代表理事
橋本亜友樹さん


2002年、神戸大学大学院 自然科学研究科 植物資源学修了、農学修士。2015年8月に「さつまいもカンパニー株式会社」を設立し、代表取締役に就任。2019年8月には「一般社団法人さつまいもアンバサダー協会」を設立し、代表理事に就任。現在は、さつまいもの栽培や販売・コンサルティングを行いながら、さつまいものPR活動を積極的に行っている。

WRITER

内田あり
Ari Uchida

フリーランスの編集ライター。食・子育て・住宅・インテリア・植物・ガジェットなど多岐にわたるジャンルで、ムックや雑誌、フリーペーパー、WEBコンテンツなどで執筆。高校生と中学生の2人の娘をもつ母であり、子どもたちの野菜嫌いを克服させるべく、献立に頭を悩ませる日々。野菜不足になりがちなので、毎日の食卓には手作りのピクルスを添えるよう心がけている。