ベランダはキャンバス。たなかやすこさんが描く、植物のある暮らし
『ベランダで愉しむ小さな寄せ植え菜園』(山と溪谷社)は、10㎡の自宅ベランダで野菜やハーブを30年以上育てているガーデニングクリエイター & イラストレーターのたなかやすこさんの著書。本書の中でたなかさんが提案する「寄せ植え菜園」は、畑を借りることが難しい人や広いベランダがないという人にとって、菜園づくりの新しい方法を示してくれています。
トマトやキュウリ、ナスなど、育てる野菜ごとに寄せ植えにおすすめなハーブ・野菜の提案、野菜のローテーションのアイデア、たなかさんの菜園の核となっている土づくりなど、長年の経験を元に得た知恵を余すことなく紹介した、まさに教科書のような一冊。
ただ、本書で紹介されている数多くのアイデアからは、どこか遊び心も感じられるのです。そこで、たなかさん宅へ伺い、実際にベランダで育つ野菜や果物をご紹介いただきながら、たなかさんと野菜のかかわりを尋ねてみました。
――真っ赤なイチゴ!ベランダでこんなに可愛らしい、絵本に出てくるようないちごができるんですね...!
たなかさん:とっても甘い香りでしょ!しっかり実をつけてくれて。毎朝眺めるのが楽しみなんです。
――『ベランダで愉しむ小さな寄せ植え菜園』の中でも、寄せ植え菜園の知恵をたっぷりご紹介してくださっていますが、実際にこうしてベランダを見させていただくと、多様で、豊かな植物のありように驚きます。まずは、たなかさんがベランダで野菜づくりをするようになった背景を教えていただけますか?
たなかさん:もちろんです。

たなかさん:もともとは、畑を借りて野菜やハーブを育てていました。ただ、畑が自宅から歩いて20~30分とそれなりに遠い場所にあったので、夏場、収穫量が増えるとどうしても負担が大きくなってしまって。2人の息子が手伝ってくれている間は畑で野菜づくりをしていましたが、彼らがそれぞれ成長していくタイミングに合わせて、ベランダで野菜やハーブを育てるようになりました。
――ベランダでの菜園の始まりは、畑の立地やご家族の都合という、言わば外的な要因だったのですね。その後、こうして現在のスタイルが形作られていくまでに、どのようなことをされたのでしょうか?
たなかさん:コンテナで植物を育てる場合、土をしょっちゅう変えなきゃいけないし、ベランダで土を変えるとなると重労働な上に、汚れるでしょう?色々な土を試しながらココヤシ繊維からできた土に出会って、この土をずっと使い続けてみたらどうなるんだろうって思ったんです。試行錯誤して微生物が働きやすくなるように組み合わせた土を使うようになってからは、13年間変えずに済んでいますよ。

――13年はすごいですね...!ベランダでの菜園づくりも、ずいぶんハードルが下がります。
たなかさん:作業がラクになるのはもちろん、土を変えずに季節ごとに多様な植物を植えることで、土の中に住む微生物にも多様性が生まれるんです。さまざまな微生物がいると、植物が病気になりにくくなったり、植物の老廃物が微生物の栄養になったり。お互いにメリットがあるので、植物も土も、健康な状態を保てています。
収穫期を過ぎても植えっぱなしのブロッコリーに、簡単に寄せ植えが完成するベビーリーフミックス。遊び心が垣間見える愉しい菜園
――ブロッコリーって脇芽が出るんですね!
たなかさん:ブロッコリーって太い茎の中心に蕾がひとまとまりに育つから、一度の収穫で終わってしまうと思うでしょう?でも、その後も茎から脇芽が次々と生えてきてちょこちょこ収穫できて楽しいんです。
一口サイズなので小房に分ける手間もなく、さっと加熱してお弁当にもピッタリサイズ。売ってないけど育ててるからこその収穫ね!そしてこのブロッコリー、茎を残しておけば翌年以降も収穫が続く多年草なの。天井に届くほどになっちゃったけど4年くらいは食べ続けられますよ。

――ブロッコリーを育てるなら、断然、植えっぱなしにしたほうが良さそうですね。それから、このベビーリーフ。植えてあるホーローのハンギングを書籍の中でも拝見して、すごくかわいいなと思っていました。
たなかさん:これは初心者の方にもとってもおすすめ。いろんな葉物が混ざった「ベビーリーフミックス」の種をまけば、簡単に”寄せ植え”にもできちゃいます。大きく育てる必要がない品種ですし、ベランダ菜園という環境にもぴったりです。

――キッチンから最短で収穫できるのも、なんだか楽しいですね。
たなかさん:2,3枚ハサミで切ってお弁当に添えたり、オープンサンドに好きなだけのせたりと、何かと便利に使えるんですよ。
またもうすこし大きな、50Lほどのコンテナで寄せ植えをすると、1年中いろんな植物をローテーションで育てる「リレー栽培」ができるので、植物の種類や大きさの幅もぐんと広がります。
――『ベランダで愉しむ小さな寄せ植え菜園』の表紙にもなっていますね。
たなかさん:今でこそ、パーマカルチャーという言葉が根付いているけれど、使い続けられる土を作ることで、コンテナ1つで持続可能な菜園を再現できます。一見、植物の数が多いように感じるかもしれない。でも、植物同士が寄り添い合えるから、毛布をかけるように寒さもしのげるんです。太陽が照りつける夏は、土の水分蒸発を抑えて根を守ってくれるから、土をむき出しにしないと良い事がいっぱいなの。
それに、寄せ植えに特定の葉物に卵を産む虫が苦手な植物を一緒に植えておけば、葉物を食べる虫を遠ざけることもできますよ。

――たくさん植えれば植えるほど、お世話が大変...と思っていたのですが、むしろ多様な植物を一緒に植えるからこそ、お互い助け合うように育っていく。寄せ植えは、植物が健やかに、そして持続的に育つ方法なのですね。
きっかけはミニトマトのおすそ分け。野菜の完璧な美しさに魅了され続ける
――冒頭、たなかさんがベランダで菜園を始められた背景について伺いましたが、そもそもガーデニングクリエイター & イラストレーターとして活動を始める時、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
たなかさん:近所で家庭菜園をしている友人から、ひと房のミニトマトを頂いたのがきっかけでした。もともと、腕時計のデザイナーとしてフルタイムで働いていたので、野菜作りやガーデニングといった世界とは無縁のところにいたんですけど、そのミニトマトにものすごい衝撃を受けたんです。
ミニトマトっていうと、スーパーに売っているパックに入ったものしか知らなくて。とりたてのそのトマトは茎や実にうっすら金色の産毛が生えていて、赤から緑のグラデーションがみごと!神様の作ったものに負けたって思いましたね。デザイナー視点から見ても、完璧でめちゃくちゃ綺麗でした。
その時、食べたいと思うより先に、とにかくこの美しさを残したいと思って、咄嗟にデッサンしました。デザイナーという仕事柄、頭の中にあるアイデアに形を与えることには慣れていたのですが、この時久々に観察して描きましたね。
――植物の美しさに突き動かされたんですね。
たなかさん:それで、長男の小学校入学というタイミングもあって会社をやめちゃって、すぐに菜園を借りました。自分でも育ててみたいという一心でした。
――一見、まったく異なる分野への挑戦のように思われますが、ベランダ菜園での遊び心ある工夫や、思いがけないアイデアは、デザイナーというご経験も生きているように感じます。
たなかさん:ありがとうございます。ただ、ミニトマトに出会った時から何も変わらないんです。野菜が綺麗って思う気持ちが、このお仕事のまんなかにあります。
――菜園の拠点をベランダに移された背景や実際に育てている野菜のお話など、たくさんお聞かせいただきありがとうございました。この書籍と一緒に、まずは小さなコンテナで菜園を始めてみようと思います。
【Book】『ベランダで愉しむ小さな寄せ植え菜園』たなかやすこ/2025年/ 株式会社 山と溪谷社
Starring. たなかやすこ / Yasuko Tanaka
ガーデニングクリエイター。イラストレーター。
ベランダガーデナーとして、自宅ベランダの菜園で30年以上野菜を育て続けている。
『ベランダで愉しむ小さな寄せ植え菜園』をはじめ、著書を多数出版するほか
メディアや講演会等、幅広く活躍。
WRITER

古いものと漫画と料理が好きなフリーランス。20歳のとき、産婦人科系の病を患い、食事や美容に気づかうようになりました。家族や友人と過ごす以外、お肉は控えるフレキシタリアンを実施中。ルールよりも、”心地よいおいしい”を大切にしています。最近ハマっているのは、米粉パン作り。次の目標は自家製酵母でライ麦パンを作ること。
編集・ライターのお仕事以外に、フランスで仕入れたアンティークのオンライン販売もしていたり。楽しく、ケセラセラと、好きなことに向き合っています。
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