野菜とクリエイティブが出会った話。

2021.03.08

いつもの野菜が、おいしくなる話。feat.都立大島高校農林科[vol.3]

野菜を通じて、未来を担う世代の可能性にドキドキしたい。都立大島高校農林科を通して、「農と食」のことをお伝えするルポルタージュ連載です。

これまでの記事

VOL.1はじけるトマトとJ GAPの話。

VOL.2 「大島キムチの素」と全国農業高校収穫祭の話。

クイズ。これは、何をしているところでしょうか?

大島高校-収穫

 

答えは、「収穫」です。カゴの中に入っているのはオクラ。品種の違いを学ぶべく栽培してきた4種です。

大島高校-オクラ

これら、大島高校農林科の学びの中で収穫された季節ごとの野菜は、校内の農場管理棟で、毎週火曜と金曜に販売されています。

 

大島高校-農場管理棟

訪問時、教員も学生も「生産品販売所」と呼んでいたこのスペースのことが、気になっていました。お客さんは、ときどきは旅行客もいるけれど、島内の“なじみ”の方が主なのだそうです。常連と言えるのは、20人ほどとか。

「ちょっと寂しいですね」

そう伝えると

「まあ、基本的には毎回大体完売していますし、教師も学生も、他にもいろいろやるべきことがあるので、できる範囲でやっています」

という返事でした。

……うん。なんだか、もったいない! 

高校生がつくった新鮮な野菜を買えて、本人たちとも話せる場所なのに、もっと広くこの魅力が知られたらいい。率直に、そう思いました。

 

クリエイターを志す学生の力で、生産品販売所を魅力的に!

2020年初秋、グラフィックおよびWebデザイン、CG、映像等のクリエイティブ業界を牽引するクリエイターを輩出するデジタルハリウッドのスクール生に関わる機会を得ました。

千載一遇のチャンス。

「大島高校農林科の生産品販売所を広報するポスターをつくっていただけませんか?」

思いきって相談したところ、コンペティション形式の実践課題として、取り組んでくださることになりました。

履修科目内の課題という枠を超えたリアルな社会の役に立つ試み、経験という位置づけでの快諾でした。

 

今度は大島高校へ連絡。農林科の主任・金子先生へ「まんぷくベジ」の意図と、デジタルハリウッドの紹介をしたところ、「ぜひ!」と話が一気に進み始めました。

 

時はコロナ禍、デジタルハリウッドのみなさんへのオリエンテーションは、オンラインで。

「みなさん、野菜はお好きですか?」から始め、大島高校農林科の「生産品販売所」のこと、その背景にある日本の低い食料自給率(37%)、とくにひどい東京の食料自給率(1%)、止まらない農地面積や農業人口の減少、さらには消費者側の希薄な問題意識など、山積する課題もふまえて、農業高校生の応援を20名のスクール生にお願いしました。

クリエイティブの力で、どうか大島高校の「生産品販売所」を盛り上げてください!

大島高校-新鮮野菜

 

「僕らの島高夢マルシェ」ポスターとロゴが誕生!

大島高校-ポスター

オリエンテーションの約3週間後、20人の企画・デザインの提案を金子先生と受け、大島高校農林科全体で最終検討を行いました。魅力的な数々の提案の中から採用されたのが、このポスターです。「まんぷくベジ」で、初公開します。

 

そして実は、今回の取組みをきっかけに大島高校の「生産品販売所」には、「僕らの島高夢マルシェ」という名前がつけられました。

学生と教師みんなで考え、選んだ名前だそうです。

 

新しい名前と大島高校農林科の生産品販売所が持つ可能性を、大島から野菜の渦が広がって行くイメージで。島・海・野菜を連想する色使いで明るい印象で表現。

このポスターは2021年春から、生産品販売を行う農場管理棟の1階ほか、さまざまな場所に掲示されます。

 

クリエイティブを手がけた
松田
晏奈さんインタビュー!

 

心を動かされる作品がいくつもある中で選ばれたこのポスターとロゴの作り手は、デジタルハリウッド「Webデザイナー専攻 超実践型 就職・転職プラン」受講生の、松田晏奈さん。

卒業制作を行っているというまっただ中、大島高校農林科「僕らの島高夢マルシェ」のクリエイティブをつくったときの想いを、インタビューしました。

大島高校-松田晏奈さん

松田晏奈さん アパレルメーカーなどでパタンナーとして働いた後、WEBデザインを志し、デジタルハリウッドWebデザイナー専攻 超実践型 就職・転職プラン」を受講。愛媛県出身。お気に入りの柑橘は甘平(かんぺい)。

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Q.オリエンテーションを受けて、どんなことを感じましたか?

A.何も知らなかったことに驚いた、というのが正直なところです。

日本は自然も水もあって、豊かな国だと思っていました。学生時代に地理で全国各地の特産品を習いましたよね。あの頃のままで、理解が止まっていて。

また大島高校農林科は、J GAPや、島の気候に合わせた野菜づくりなど、高校生1人ひとりがこれからの農業に必要なことに向かっていてすごい!と思いました。私、高校生のとき何をしてたっけ、と(笑)。

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Q.デザインをつくるときに、考えたことは?

A.「まずは島全体に魅力を知ってほしい」です。

そして「大島が台風の目になって、広がっていけばいいな」と。ただ当初は、この魅力を伝えるなら世界的な規模!とまでイメージが広がったりもしていたんです。講師の先生に相談に乗っていただきながら考え続けるうちに整理ができて。地元を固めるなど高校のよさを生かすこと、飛躍しすぎず1ステップ目を大事することを考えるようになりました。

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Q.今回の取組みを通じて学んだことは?

A.相手のことを考える難しさ、でしょうか。

ポスターをきっかけに、マルシェがどうなっていくとよいか考えながら、でも独りよがりにならないよう注意しながら作業しました。トレンドや、大事にすべきことを残しつつ、受け取る側の心地よさも叶えてデザインしていくことは、お洋服のパターンづくりと通じるところがありますね。もともとは私、デザインのことだけを目指していたのですが、今回をきっかけにデザインも含めた情報発信の全体に興味が湧きました。もっと、いろいろな人の気持ちを手伝っていきたいと思っています。

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農業と、クリエイティブ。ひと昔前なら縁のない業界だったかもしれません。

けれど、未来に向かっていく人同士がつながると、新しい可能性が一気に生まれ、広がる。

「まんぷくベジ」が、そのお手伝いをできて、心からうれしく思います。

 

我々、野菜の食べ手ができる1ステップ目は、「野菜を選び、おいしく食べること」。日々、手にする野菜それぞれに、必ず物語があることに気づくこと。

大島高校はもとより、全国各地にある農業高校では、生産品の販売を行っているところが多数あります。ぜひ野菜に、そして高校生にも、会いに行ってみてはどうでしょうか。

 

 

 

文=くりたしの

撮影=林チカラ

 

協力

都立大島高校 農林科 http://www.osima-h.metro.tokyo.jp/site/zen/index.html

Twitter ID @tokyooshimahs

 

デジタルハリウッド専門スクール https://school.dhw.co.jp/