旬を味方につける【料理との距離感は、いつだって手探り中。】

WRITER/
寺田さおり

〜野菜を愛するフードスタイリストの食卓から〜 vol.3

執筆、編集、そして料理のスタイリングを生業する寺田さおりさん。2023年11月11日に開催された「文学フリマ東京36」では、初となる自主制作のZINE『うつわと人 Vol.01』を発売。うつわ好き、料理好きな人たちから密かに人気を集め、自主制作ながらじわじわと販売部数を伸ばしています。


時に言葉や写真で、時にスタイリングで食の風景を演出する一方、寺田さんは二児の母として、自宅のキッチンにも立っています。この連載では「フードスタイリング」のそとがわ、家族のあいだにある食の風景と向き合う姿を、寺田さん自身の言葉でお届け。連載最終回となる今回は、農産物直売所のお話です。

旬と出合える農産物直売所

農産物直売所の葉物コーナー

子どもが生まれてから、小さな子を連れてスーパーに行くことがたいへんで、食材の買い出しはもっぱら宅配の生協頼みだった。しかし、子どもたちが歩きはじめ、「抱っこ!」とせがまれることもほとんどなくなったここ数年。わが家の新たな習慣となっているのが、週末の農産物直売所通いだ。

わたしの住んでいるエリアは東京のベッドタウンともいえる町で、都市部と農村部のちょうど中間地点にある。近所の馴染みのスーパーからほんの10分ほど先まで車を走らせれば、農産物直売所がいくつか点在している。最近ではいちご農家さんが営む直売所〜道の駅を結ぶルートがお決まりだ。

午前中、いつもより少し早めに道の駅に着くとちょうど地元の農家さんが野菜を直接持ち込んで陳列しているところに出くわした。その野菜のみずみずしさったら!水分を含んだ葉物野菜はパリッとしていてツヤがあり、野菜一つひとつがエネルギーを放っているように見える。

春先の今、陳列棚には新玉ねぎ、新じゃがいも、春キャベツ、菜の花、たけのこなどが並んでいる。並べられている野菜や果物の種類によって季節の移ろいを感じられるのも直売所のいいところ。

旬の野菜のいいところはそれ自体の味が濃くてうまみがたっぷりなので、ほんの少し手を加えただけでおいしく食べられることだ。

玉ねぎやキャベツは煮て、じゃがいもは蒸してみようか。たけのこは焦げ目がつくくらい焼いてしょうゆを少したらしてみようか。こんなふうに、旬の野菜 × シンプルな調理法 × 1~2種類の調味料の組み合わせの妙を楽しんでいる。

直売所に行く日はとくにメニューは決めず、気になった野菜を手にとってカゴに入れる。最後にレジに並んでいるあいだに、カゴいっぱいに入ったツヤツヤの野菜たちを眺めていると、その日のメニューが決まることもよくある。

 

農産物直売で出合ったキャベツで作ったポトフ

先日、農産物直売所を訪れたときに立派な春キャベツを見つけた。キャベツはざっくりと大きめに切って、新じゃがいもやにんじんとともにポトフにした。大きな鍋にこれでもかというほどぎゅっと野菜を敷き詰めて作る。

味つけは塩こしょうだけ。無水鍋で50分ほど弱火でじっくり煮込んで野菜のやさしい甘みがとけだしたスープはブイヨンいらずなのだ。これだけでメインをはれる一品になる。

旬は最強の調味料だ。

もしポトフに飽きてきたらブレンダーでなめらかになるまですりつぶして牛乳を加えればポタージュにもなる。けれど、わが家では子どもが成長するにつれ食べる量が増えてきて、ポタージュにする前にポトフが売り切れてしまうことが多く、今では幻のポタージュとなっている。

子どもたちが幼く偏食がひどかったころ、おひたしや和えもの、サラダなどの野菜は見ただけで一発アウト。お皿の上で弾かれてしまうことがよくあった。そんなときでもくたくたになるまで野菜を煮込んだスープや野菜をすりつぶしてさらさらと食べられるポタージュは子どもたちも無理なく食べられていたようだ。

 

「ごはんとスープさえあれば大丈夫」

 

そんな言葉をお守りに、旬の野菜のおいしさと栄養を余すことなくいただくことのできる味噌汁やスープ、ポタージュなど、あらゆる種類の汁ものに救われてきたのだった。

 

 

ざっくり盛るだけでさまになるうつわ

お気に入りのうつわに盛り付けた赤カブの酢漬け

料理においてもう一つ、わたしが味方につけているものに「うつわ」がある。

第一子の出産のときに、妊娠高血圧症候群になってしまった経験から小さなわが子に「食事には気をつけなきゃいけないよ……!」とメッセージをもらったような気がした。そこから食生活を整えることに真剣に向き合ってみようと思った。

自炊のモチベーションの維持のためはじめたのが作った料理の写真をSNSに投稿することだった。写真をSNSに投稿するうちに「見た目もおいしさの一部」ということに改めて気がついた。そこから1つ2つと、気に入ったうつわを集めはじめた。

もともと料理が好きだったからうつわが好きになったのではなくて、むしろその逆だ。うつわを好きになったおかげで台所に立つ回数も増え、どんどん料理が好きになっていった。

うつわからはじまる料理の楽しさもあると思っている。だから「料理が苦手で、食器もとくにこだわりがない」という人ほど試しに、まずは1枚だけ、気に入ったうつわを手にとってみてはどうだろう。

わたしは実際に手で触れて選びたいと思うタイプなので、オンラインよりも実店舗で購入することが多い。実際にお店でうつわを手に持ったとき、料理を盛ったイメージがぱっと思い浮かぶときは購入に至る確率が高いように思う。

 

 

生活は最高のエンターテイメント

酢漬けを仕込んでいる様子

仕事に学校にと忙しい日々を送っていると料理を含む生活って、めんどうで煩わしいものになりかねない。「義務になってしまっているな」と感じることも往々にしてある。こと料理においては1日3回もあるもんだから、休日なんかは朝ごはんを作って片付け終わったと思ったらあっという間に昼ごはんの時間がきて……と、一日中台所にいる気がする。

生活に終わりはなくてこの先も続いてく。どうせなら嫌々やり過ごすのではなく少しでも楽しみたいという気持ちから、ときに「旬野菜」や「うつわ」のちからに頼って日々どうにかこうにか投げ出すことなく生きている。

そうやって試行錯誤しているうちに「生活って最高のエンターテイメントでは?」とさえ感じるようになってきた。チケット代もかからない。なかでも料理はおいしくて健康にもなるという特典つきだ。

料理を続ける理由はさまざまだが、料理の真髄はやはり、料理をすることを楽しむことだろう。楽しみながら料理をすれば、自分なりのおいしさも見えてくる気がしている。これからも自分なりの「おいしさ」を追い求めて、楽しみながら生活を営んでいきたい。

 

 

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WRITER

寺田さおり
Saori Terada

ライター・編集者、フードスタイリスト。会社員として地域・企業広報誌の編集部に所属し、コンテンツ制作を経験した後、独立。現在は、主に食と暮らし、ものづくり、地域、働き方をテーマに取材・執筆をしている。そのほか料理撮影におけるスタイリングを手がけることも。書く・撮るはライフワーク。ここ数年は発酵食に傾倒中。

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