管理栄養士の私が気づいたヴィーガンへの誤解 〜“いのちを食べる”を考える~<前編>

管理栄養士の視点で考えるヴィーガンのこと

坂田芽唯さんは、人々の食事と健康に関わる管理栄養士。昨今広がりつつあるヴィーガンの思想に関して、坂田さんは栄養の偏りや過激なイメージを懸念していたため、あまり前向きではなかったと言います。しかし、ヴィーガンの友人との会話をきっかけに、今までの考えを見直すようになったそう。そこでこのコラムでは、健康と動物愛護、二つの視点の間で試行錯誤する彼女の食に対する意識や、食生活そのものの変化について、前編・後編に分けてご紹介します。

管理栄養士の坂田芽唯さん

 

「ヴィーガン?いやいや、手軽なたんぱく質の摂取源として肉は欠かせないでしょ」
 

そんな風に思って管理栄養士の私が、少しだけ肉を減らすようになりました。きっかけは那須の温泉宿でのある夜、付き合いの長い友人との会話。私はこれまで頻繁にお肉を食べていましたが、この日以降、少しだけ肉の摂取を控えるようになり、畜産についても積極的に調べるようになりました。
 

今回は、私のヴィーガンの価値観がどのように変わったのか、そしてなぜ少し肉を減らす選択をしたのかをお話ししたいと思います。

 

きっかけは友人の深夜の女子会のひとこと

高校時代からの親しい友人が、数年前からヴィーガンの生活を始めました。以前は肉が好きだった彼女が、ある日突然「肉を食べるのはやめた」というのでとても衝撃的に感じたものです。そんな彼女と過ごした那須旅行。深夜の女子会では、自然と彼女が実施しているヴィーガン の話題に。彼女の話によると、ヴィーガンに関心をもったきっかけはペットの死だったそう。大切にしていた命が失われたとき、目を背けていた肉の大量生産や消費、家畜の飼育環境に対して深く考えるようになったといいます。そして、そのような動物の課題に少しでも対抗する手段が、肉を食べないヴィーガンという選択だったと話しました。

 

彼女の話は、私自身の食生活を振り返るきっかけになりました。確かに私も栄養素的に必要な量を買うことよりも、「大量に買っておけば何かと使うだろう」と大きな肉のパックを選んだり、献立に悩んだときは肉を定番としたりすることが多かったのです。

 

「あの肉は本当に必要な量だったのか?」

「手元にあるから量増しに使っていただけで、他の食材を使えば良かった場面はあったのではないか?」

 

以前、あれだけ他人事に感じていたヴィーガンの思想に対し、自分ごととして、自然に受け止められていたのです。

 

「ヴィーガン」への二つの誤解

「動物性のタンパク質を断つヴィーガンの思想は、栄養が偏る」そんな印象を抱いている方も多いはず。実は私もその一人でした。しかし友人が話すヴィーガンの考え方は、私が想像していたものよりもずっと柔軟性のある思想だったのです。

 

彼女にとってヴィーガンとは「肉の生産や大量消費の実情を知った上で、自らの消費行動を見直すこと」で、多くの人がそのような意識を持てば肉の大量消費を防ぐことができるといいました。例えば週に一食だけ肉を大豆ミートに変えたり、肉の代わりに魚を選んだりすることでも肉の消費を減らせると考えているそう。そしてその行動の裏付けに動物愛護の思想があるなら、ヴィーガンの考えにつながっていると話しました。

 

家畜の飼育環境を調べ、購入するようになった平飼い卵
家畜の飼育環境を調べ、購入するようになった平飼い卵

 

彼女の言葉を聞いて思ったのは、「それならできそうだ」ということ。パック詰めされてスーパーに並ぶ肉をみていると、どうしても命を消費しているという感覚が麻痺してしまいがちになります。薄々と課題を感じながらも行動する手段がわからなかった私にとって、この良い意味でグレーな選択肢は、ヴィーガンへの印象を優しく大らかなものへと変えてくれました。「断つのではなく減らす」という考え方は、栄養士として最も心配していた栄養面への不安も和らげました。

 

私が想像していたようなストイックなヴィーガンの場合は、動物性食品を全て断つため、肉に豊富なたんぱく質やビタミンB12のような栄養素は不足しがちになります。一方で、彼女が話すようにあくまで動物性食品を減らすという選択肢であれば、必要な量を考えながら肉を食べることも可能でしょう。

 

そもそも動物性食品を食べ過ぎているという人もいますので、肉を減らすことで健康につながるケースもあるかもしれません。体にも良く動物にもやさしい。そんな”ちょっとだけヴィーガン”という選択肢に少しずつ惹かれていきました。

 

ヴィーガンの考えで見直す自分の食事

野菜をたっぷりで食べ応えも抜群
野菜をたっぷりで食べ応えも抜群

 

まず買い物ではいつもより肉を1パック減らし、その代わりに一食分の魚を増やしました。さらに1パック当たりの肉の量にも注意するように。それまでは迷ったら大容量のファミリーパックを買っていたところを、今は必要最低限の量のものを選ぶように意識しています。この量では足りないのでは…?と最初こそ不安でしたが、実際に料理してみると手元にあるもので工夫するようになるから不思議。

 

肉の代わりに野菜や大豆製品を多く使うようになったことで、旨味に頼りすぎずに素材の美味しさを考えて料理するようになりました。例えば、甘さをひきだすために野菜をグリルしたり、旬の野菜をたっぷり組み合わせたり…。食材と向き合うことで肉を減らしても満足できるようになり、それまでいかに食事の食べ応えを肉に依存していたかを実感しました。

 

うれしい誤算だったのが、野菜を使う量が自然と増えたことでおなかの中がすっきりとした感覚に変わっていったこと。それまでは、起床時に夕飯が胃に残ってもたれているような感覚になることも多くありましたが、肉を減らしてからは身体が軽くなるような変化を感じました。ずっと胃が重い感じに悩まされていたので、自分のカラダが求めていたのはこんな食事だったのか、と肉を減らした食事をむしろ心地よく感じたのです。

 

食事の多様性を受け入れて自分らしさを深める

大豆ミートに初挑戦
大豆ミートに初挑戦

 

自分自身の食生活について深く考え、新たな視点を得ることができたのは、友人の話のおかげ。しかし、実はまだヴィーガンの価値観を広めることに対しては迷いもあります。社会的な問題と複雑に結びついているヴィーガン主義。動物の権利や愛護を考える中で、何が適切な線引きなのか分からなくなり、食べる行為に対して罪悪感を感じることもありました。

 

肉を含む食事には食べる喜びや栄養があることもわかる管理栄養士として、人に伝えるということには慎重になる必要があると思っています。そんな私の目標は、まず自身の食生活を通してヴィーガンの考え方に寄り添って行くこと。

 

次回の記事では、肉を減らすようになった私とがっつり食べたい夫、二人の食事がどのような形に変わったのかをご紹介します。
 

WRITER

坂田芽唯
Mei Sakata

管理栄養士。栄養・レシピ・ヴィーガンなど、食に関する記事をWEBコンテンツで執筆。その他、カフェのメニュー開発、料理動画制作などをして活動。これまでは給食提供のほか、離乳食指導や食育指導に従事。幼少期から茶道を習っており、日本文化が好き。こども食堂を開くのが夢!