自然派インド料理 ナタラジ
「ナタラジファーム物語」

2020.05.25
WRITER/
Mizuho Ajihara

作り手と料理人と食べ手をつなげるナタラジ野菜

料理の主役は野菜。それゆえ野菜への思い入れが深く、自分たちの手で野菜づくりから行っているレストランがあります。それが、日本にインドの菜食文化を伝えた草分けである「自然派インド料理 ナタラジ」。提供されるお皿の向こう側には、野菜づくりに励み、汗するナタラジファミリーの姿がありました。

創業者はインド西部グジャラート州の出身。もともとベジタリアンで、日本にも菜食料理の素晴らしさを伝えたいと1989年、都内に1号店を開いたのが始まりです。

当時、インド料理といえばチキンやマトンなどの肉を使ったカレーが主役で、「ベジタリアンって何?」と言われていた時代。「日本で菜食のレストランをやるのは難しいよ」と日本に住むインド人の友人からもさんざん言われたのだそうです。

現在は東京の銀座、荻窪、原宿表参道、渋谷と長野の蓼科に5店舗を展開するほどの人気店に成長しましたが、創業当時は主役である野菜の味に納得することができず苦心。そのことが、自家農園を手がけるきっかけになりました。

「以前は山梨の自家農園で野菜を育てていました」と話してくれたのは、ナタラジ渋谷店の店長、松川美和子さん。

 

ミラン・ナタラジ渋谷店の店長 松川美和子さん

 

「当時のオーナーと総料理長のサダナンダは仕入れる野菜を吟味しつつも、なかなか納得しませんでした。サイズも形もいいけれど、インドの野菜に比べると味にずっしりとした深みがない。日本の有機野菜を手に入れたとき、スパイスにも負けない力強い味で、これならぜひ使いたいと思ったそうですが、価格も高く、種類も限られていました。そこで、安定した有機野菜の収穫量を確保するため、自分たちの手でおいしい野菜づくりに取り組み始めたのです」

 

毎日自家農園から届く自慢の野菜を使って料理するサダナンダ総料理長
(毎日自家農園から届く自慢の野菜を使って料理するサダナンダ総料理長)

 

 

20年以上から最初山梨で、さらに蓼科、いまは南房総などにも「ナタラジファーム」があり、自社スタッフたちが完全無農薬と有機肥料栽培で、各店舗で使う季節の野菜を育てています。畑から直送される野菜は生命力にあふれ、味が濃く、「カレーの味にも深みがでてきました」と松川さん。

 

南房総ファームのキャベツ畑

 

房総半島の最南端、白浜にある南房総ファームは、温暖な気候で野菜づくりに適した場所。3カ所のうち一番早くキャベツやレタス類、たまねぎ、じゃがいも、にんじんなどさまざまな種類の野菜が収穫期を迎えます。

しかし暑くなりだすと、高温多湿のためレタスや小松菜も収穫が難しくなってくるそう。その頃ちょうど収穫期を迎えるのが、八ヶ岳山系の裾野に広がる山梨ファーム。そして山梨の畑も猛暑の夏を迎える頃には、長野の蓼科ファームで高原野菜がよく採れる時期に。

台風や日照りの被害、猿などの動物で作物が全滅することもあり、同じ場所で畑をやるリスク、また野菜を運ぶコスト面も考慮し、東京から離れすぎない範囲で農園をやっているのだそうです。

 

山梨ファームのにんじん畑

 

完全無農薬と有機肥料栽培で育てているナタラジファームでは、担当するスタッフによって液肥や自然農薬、堆肥づくりなど、さまざまな工夫をしているとのこと。にんじんと一緒に草も伸びている光景は、除草剤を使っていない証。たまに野菜に虫がいて駆除するのに手間はかかるけれど、何よりも安全であることを重視し、殺虫剤や除草剤を使わないのも彼らのポリシーです。

日々レストランを取材していると、野菜は仲卸業者にお願いしたり、契約農家から直送してもらうという話はよく耳にしますが、自分たちの手で一から食材の生産にたずさわっているというレストランには滅多に出合いません。

農業と飲食業はまさに畑違い。でも、「野菜づくり自体が本当に楽しいんです。自社スタッフですとお互いよく知っている仲間同士なので、畑で仕事するスタッフたちは総料理長はこういう野菜だと喜ぶかな?と考えながらつくったり、野菜を切る人や調理する人にも扱いやすいいい野菜をつくってくれたね” “料理もいい味出るなと喜んでくれるように畑仕事をしているんですよ」と語ってくれた松川さんの実感のこもった笑顔が印象的でした。

 

ナタラジレストラン内に飾られるインドの神様の彫像

 

作物を作り、運び、材料を洗い、切って料理し、お客様にサーブする人がいてはじめてお客様が口にする。インドの伝承医学であるアーユルヴェーダでは、5つのすべてのエネルギーが食事となって人のカラダを作るとされているため、そのステップをとても大切にしているとのこと。

 

その流れのすべてが食べることと当然のように捉えているナタラジスタッフたちのつくる一皿は、まさにカラダが喜び、食べたあとに心地よさが残るヘルシーな味わい。私たち食べ手の心もおなかもじんわり満たしてくれます。

 

ベジタブルカレー1160円

 

ナタラジファームから季節ごとに届く野菜がゴロゴロと入った「ベジタブルカレー」1,160円は、まるで大地のエネルギーをそのままいただいているかのような力強い味わい。食べたそばから元気が湧いてきます。

さらっとしたベジタブルカレーのほかにも、とろみがあり濃厚な豆カレーや、カシューナッツを使ったコクのあるカレーまで、野菜や豆のカレーだけでも多彩に揃います。決してヘビーではなく、逆におなかいっぱい食べてもカラダがすっきり軽いのが不思議なくらい。

 

インド神話をモチーフにした彫像が飾られているナタラジ銀座店の店内
(インド神話をモチーフにした彫像が飾られているナタラジ銀座店の店内。インドの文化や芸術も感じられます)

 

ナタラジの利用客は意外にもノンベジタリアンが8割。オフィスで働く人たちの普段使いも多く、「週に一度はカラダをリセットしに通う人もいらっしゃいますよ」と松川さん。

食べてカラダが素直に喜ぶナタラジの野菜料理。それはきっと、大地の栄養と愛情をたっぷり受けて育ったナタラジ野菜がおいしいだけでなく、野菜をつくる人から料理する人へ、それをサーブする人からお客様へと、リレーのバトンのように思いがつながって見えるのも大きな要素かもしれませんね。

 

写真=田中秀典、ナタラジ

 

お店の公式サイトはこちら> 自然派インド料理 ナタラジ

まんぷくベジでそれぞれのお店の情報をご紹介しています。

自然派インド料理 ナタラジ銀座店
自然派インド料理 ナタラジ原宿表参道店
自然派インド料理 ナタラジ荻窪店
自然派インド料理 ミラン・ナタラジ渋谷店

WRITER

味原みずほ
Mizuho Ajihara

敬食ライター。フードアナリスト。都内飲食店を中心にマルシェ、農家、ブルワー、コーヒークリエイター、料理研究家など幅広く取材。好きな場所は道の駅とアンテナショップ。出身地の青森県七戸町(旧天間林村)は“にんにく”の名産地で、シーズンになると放課後は裏の畑で収穫や出荷のためのネット詰めを手伝っていたことも。おやつは自家製黒にんにく。