私たちが知らない、五葷のホント
〜禁忌の誤解から食生活への活かし方まで〜

[vol.1] 仏教において、特定の野菜を避けるホントの理由とは?

“五葷(ごくん)”て何だろう? ルーツや考え方の答えを探しあぐねていた「まんぷくベジ」は、曹洞宗僧侶の西田稔光さんとのご縁をいただきました。そのお話は、まさに目からウロコ! 疑問だらけの五葷について、西田さんとのお話をもとに、管理栄養士の資格を持つスタッフが3回シリーズでお届けします。

そもそも、五葷とは?

ニラとらっきょう

五葷は、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、アサツキ(タマネギ)、ネギの総称です。匂いが強く精力をつける野菜と考えられており、仏教などの宗教では口にすることを避けられてきました。
また、「オリエンタルヴィーガン」と呼ばれている方々も、五葷を避けていることで知られています。
 

知っておきたい、道元禅師の『典座教訓』

五葷について考える前に、西田さんから聞いた曹洞宗としての食に対する考え方に触れておきたいと思います。
ここでは、曹洞宗の『典座教訓(てんぞきょうくん)』という、調理にまつわる書物に基づいてご紹介しましょう。
『典座教訓』は、永平寺を開いた道元禅師が記した書物です。禅寺では、修行僧の食事を司る「典座(てんぞ)」という役職がありました。『典座教訓』には、この典座が担うべき職責や、調理に対する姿勢や心構えが記されています。
この書物が記されるまでは、日本の仏教には「調理を修行とする」という考え方は浸透していませんでした。道元禅師が仏法を追求するために宋に渡った際、調理や食事を修行として務める姿に感動し、書き記したといわれています。
そして、日本の仏教の中で「調理を修行」として説いた最初の書物として、今日まで受け継がれてきました。
 

 仏教に「五葷」という言葉はない!?

仏教の中でも、五葷に対する考え方は、宗派や年代によって異なります。
そして、経典や仏教書には、実は「五葷」という言葉は登場しません。
仏教では、今でいう五葷は「五辛(ごしん)」と呼ばれ、ニラ、ニンニク、ラッキョウ、ネギ、アサツキ(タマネギ)という、同様の食物のことを指し、食べることを避けてきました。
他にも、匂いや辛味のある野菜は「葷辛(くんしん)」と呼ばれており、現代の日本ではこの「葷」を匂いの強いもの、「辛」を辛みのあるものとして分けて捉えたことが、五葷と五辛の違いの原因かもしれません。


ニンニク

「仏教は五葷を避けてきた」と聞くと、頭ごなしにまとめて禁じたようなイメージを持ちませんか?
実は、避けられたものにはとても具体的な理由があったことが、仏典から分かるそうです。ここでは西田さんから聞いた例を具体的にご紹介しましょう。
 

避けた理由①  観客が説法を聞けない

昔、お釈迦様が説法をしていた時のことです。修行僧の一人がやけに遠くにいるのを不思議に思ったお釈迦様が、「なぜそんなに遠くにいるのか」と問うと、その修行僧は「私はにんにくを食べて口が臭いから迷惑をかけたくない」と答えたと言います。
このエピソードから、にんにくを食べると距離を取られてしまうため、仏教を布教するのに相応しくないものと考えられるようになりました。

 

避けた理由②  食欲増進で修行の妨げに

修行僧にまつわる、こんなエピソードもあります。
昔、ニンニクが薬として使われていた時期がありました。滋養強壮に効果があると考えられていたからです。
しかし、修行僧の一人が、欲に駆られてニンニクをむさぼり食べてしまうという出来事がありました。ニンニクは、精をつけて食欲を増進するため、修行僧も我慢できなかったのでしょう。
こうして、ニンニクは「欲をかき立て修行に向かない」として、常食を避けられるようになり、あくまで薬として扱われるようになっていきました。

 

避けた理由③   神聖な場に、いい匂いのものが好まれた

仏教発祥の地であるインドでは、香りを重視する文化がありました。特に、神聖な場である寺院では、その傾向が強かったと考えられます。
口臭に影響するような野菜を食べると、部屋で説法や修行をしているときに、修行僧が集中できません。また、神聖な空間であるはずの寺院も匂ってしまいます。
そのため、食べた後の口臭に影響する五葷は避けられるようになりました。

 

これらのエピソードから分かるのは、仏教では五葷を避けたのは「匂い」と「欲の増進」という、非常に具体的な理由があったということですです。ニンニクなどの匂いを気にしていたと聞くと、親しみやすさも感じるでしょう。
現実的な話に基づいているため、五葷を抜くことをあまりスピリチュアルに捉える必要はありません。
彼らが五葷を避けたことには、栄養学的にも根拠があります。ニラ、ニンニク、ラッキョウ、アサツキ(タマネギ)、ネギには、アリシンという成分が含まれており、これが匂いの原因です。
また、アリシンは糖質代謝を促し、エネルギー産生を助けるため、精力がついて食べすぎてしまった修行僧の話にも繋がります。
 

現代人に必要なのは、「自ら選ぶ力」

仏教で五葷を避ける行為は、自らの生活や生き方の上で、必要なものを選択してきた結果といえるでしょう。
一方で、情報社会の日本に生きる私たちは、食べてはいけないものと聞くと、つい鵜呑みにしてしまいそうになります。
もし仏教の考え方を取り入れるのであれば、私たちに必要なのは、五葷が自分に必要なものかを試してから食べるか食べないかを決めるという「選ぶ力」なのかもしれません。

 

*次回以降は、気になる“精進料理”のホント、私たちの食生活へのヒントになる調理方法などもお届けします!
 


 

監修:西田稔光(にしだ・しんこう)さん

1991年生まれ。栃木県足利市出身の曹洞宗僧侶。駒澤大学を卒業後、大本山永平寺や曹洞宗総合研究センター教化研修部門で学ぶ。曹洞宗の食の教えを伝え、日常に活かすことを重要なテーマとするほか、自身が触れてきたヒップホップカルチャーを通した布教活動も行っている。


▶ 禅活(西田稔光)
https://zenkatsu.site/archives/author/nidhida

▶ YouTubeチャンネル「禅活しんこうのヒップホップ仏教」 
https://www.youtube.com/channel/UCJSsjPxE306ec19r-KMYQ5g

西田さん

 


 

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WRITER

坂田芽唯
Mei Sakata

管理栄養士。栄養・レシピ・ヴィーガンなど、食に関する記事をWEBコンテンツで執筆。その他、カフェのメニュー開発、料理動画制作などをして活動。これまでは給食提供のほか、離乳食指導や食育指導に従事。幼少期から茶道を習っており、日本文化が好き。こども食堂を開くのが夢!