料理とわたし【料理との距離感は、いつだって手探り中。】

〜野菜を愛するフードスタイリストの食卓から〜  vol.1

執筆、編集、そして料理のスタイリングを生業する寺田さおりさん。2023年11月11日に開催された「文学フリマ東京36」では、初となる自主制作のZINE『うつわと人 Vol.01』を発売。うつわ好き、料理好きな人たちから密かに人気を集め、自主制作ながらじわじわと販売部数を伸ばしています。

時に言葉や写真で、時にスタイリングで食の風景を演出する一方、寺田さんは二児の母として、自宅のキッチンにも立っています。この連載では「フードスタイリング」のそとがわ、家族のあいだにある食の風景と向き合う姿を、寺田さん自身の言葉でお届けします。

食いしん坊のDNA

自然に囲まれた風景

「海や田畑といった自然に囲まれて育ち、根っからの食いしん坊」。

これは自分のホームページのプロフィール欄に、自己紹介として書いている言葉だ。ホームページを立ち上げて3年ほど経つが、この文言は変わってない。食や地域に興味を持つようになったのは、きっとわたしのルーツが関係していると思うからだ。

生まれ育った場所は東京から電車で2時間半ほどかかる、千葉県の東端にある小さな町だ。

ご存知の通り、千葉はぐるりと海に囲まれた半島になっているので、漁業が盛んだ。東京からもほど近く、農作地もたくさんあるため、あらゆる野菜の生産も行っている。

10代のころはこの土地を出て、都会に行きたくて仕方なかった。しかし、大人になって気づいた。何もないと思っていたこの町が「何でもある」ことに。

新卒でIT企業に勤めたわたしは、毎日デジタルに囲まれ、htmlと格闘する日々。慣れない都心生活も相まって、気づけば心はすっかり摩耗していた。

けれど、長期休みで実家に帰ると、どこまでも続く田畑や空の色はわたしを心底癒してくれた。その時に見た景色は、今でも忘れられない。

 

 

きっかけは第一子の出産

赤ちゃんとお母さんの手

ただただ食いしん坊で、食が好きだったわたしが「料理」と本気で向き合うようになったのは、7年前。第一子を出産したときだった。

臨月にさしかかったある日。わたしは妊婦健診のために病院へ向かった。その数日前から足のむくみがひどく、歩くたびに少し痛みを感じるほどだった。足首は見る影もなく、自分を全身鏡で見ながら「まるで像のような足だな……」と思っていた。

そうして迎えた診察。主治医の先生から告げられたのは「妊娠高血圧症候群」。いわゆる妊娠中毒症だ。有無を言わさず、即入院となった。

病院ではとにかく塩分を控えた食事を摂り、テレビやスマホなどの刺激のあるものは見ず、なるべく安静に過ごす。そうこうしているうちに、血圧は平常通りに戻り、無事に出産を終え、事なきを得たのだけど……。

このとき、自分の食生活やライフスタイルに危機感を覚えたことをきっかけに「一度、料理や食生活と、徹底的に向き合ってみよう」と一念発起した。

産後はしばらく実家で暮らしていたので、毎日、両親を含む家族5人分の食事作りをしながら、料理教室へ通ったり自然食に関する資格を取得したりと、食に関するあれこれを夢中で吸収していった。

 

 

フードスタイリストとして活動するわたしの、映えないB面

白いご飯と具だくさんのお味噌汁

その結果、今はこうして、ライターとして活動するかたわら料理のスタイリストという、ちょっと変わった合わせ技をしている。

フードスタイリストとも呼ばれる仕事で、広告や雑誌、Web、書籍などあらゆる媒体で登場する「料理のある風景」を作っている。

フードスタイリストの仕事では必ずと言っていいほど「映える食卓」を求められる。「おいしそう」と思ってもらえる、「素敵だ」「食べてみたい」と思ってもらえる世界観を作ることが仕事だからだ。

しかし、実際の生活では、決して映えるとは言い難い「おばあちゃんちの食卓」みたいな献立が、しみじみ好きだったりもする。真っ白なご飯と野菜がたっぷりの味噌汁、それにちょっとした煮物などがあれば満足だ。

それに、正直なところ、料理にかかわる仕事をしているわたしでも、料理が心底面倒になってしまい、手抜きをしたい日がある。

昨日なんて、原稿の締め切りが迫っていることを理由に、夫とランチで訪れた近所のラーメン屋さんのチャーハンを2人前、夜ごはん用にテイクアウトした。

こうやって付かず離れず、料理とはゆるく付き合っていければいいと思っている。

ただ一つ、心がけているのは、「罪悪感」や「苦しさ」など負の感情を持たないこと。

本当なら、料理をすることや食べることを楽しめるのが一番いいとは、思う。しかし、1日3回ある食事の時間。人生80年として、3回×365日×80年……87,600回!
延々続いていく生活の中で、現実は、そう言ってばかりもいられないはずだ。

それなら、「楽しむ」までいかずとも、負の感情を持たず、できるだけフラットな状態で食事の時間を迎え、終えられればそれでいい。

そして、ときどき手の込んだ料理を作ったり、おやつを手作りしたり。誰かに喜んでもらうことは、次の料理へと向かう原動力になる。

こんなふうに料理とわたしの距離感は、いつだって手探り中だ。
 

WRITER

寺田さおり
Saori Terada

ライター・編集者、フードスタイリスト。会社員として地域・企業広報誌の編集部に所属し、コンテンツ制作を経験した後、独立。現在は、主に食と暮らし、ものづくり、地域、働き方をテーマに取材・執筆をしている。そのほか料理撮影におけるスタイリングを手がけることも。書く・撮るはライフワーク。ここ数年は発酵食に傾倒中。